柳原三佳のブログ

交通事故・死因究明問題などを追及する柳原三佳からの情報発信。あるときはジャーナリスト、あるときはノンフィクション作家、でも、1日の大半はお料理と芝刈りが大好きな「主婦」してま~す!

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『巻子の言霊』を読んで

 『巻子の言霊』を読んでくださったKさんから、長文の感想メールが届きました。
 了承を得ましたので、ここに転記させていただきます。
 Kさん、お体に気をつけて、ご家族を守ってさしあげてくださいね。

***************************************************


柳原 様

 『巻子の言霊』 家事の手伝いは、そっちのけにして読みきってしまいました。 
 読み終わった頃には家族も床に入っていましたので、涙が止めどなく流れている事を悟られない様に必死に堪えていました。

 この本を読み進んでいくに従って、私の人生とオーバーラップして読んでいるのに気付きました。
 時期と規模の違いこそあれ、松尾様の退職、そして 9・11テロの事件と、私の場合の東京での地下鉄サリン事件に免れた事、仕事中連絡を受け事故後2時間してようやく地域で評判の悪い病院に辿りついてICUで妻を見た時の別人の様になった姿、いろんな線や管、気管切開のポンプの音、まるでロウ人形の様に肌の色も艶も無く黄疸が出て微動だにせずベッドに横たわっている妻に近付いていく映像が、その場に居るような臨場感で蘇ってきました。
 
 モニターに表示されている波計だけが生きている唯一確認できるツールなのです。
 面会の制限時間を越えても家族控室に戻る事など忘れて、ひたすら今の自分に出来る事は何かを自分に問いかけ、声をかけたり冷たく冷えた足を摩ったりしながら波計の波が直線にならない様に気が付けば波形ばかりを見ていました。

 本を読んでいくうちに、私自身も、いつの間にか松尾さんの奥様のいらっしゃるICU室の中に居る様な気になっていました。
 ふと我に返り、妻の潰れた肺から流れ続ける少し黒い血は、この状態では生命の危険を告げられ、手術しても助かるかどうかと言われ、止血の為の手術に1%の可能性があるならと、承諾書にサインし執刀医に全てを託したのです。

 赤い手術中の明かりが灯る真っ暗なエントランスでどれだけ時間が経った事でしょうか? 
 私は妻に、
『こんな事故如きで死んじゃ駄目だ。まだ、子供も小さい。まだおまえにはする事がいっぱいあるだろう! 死ぬな! 死ぬんだったら俺が替わってやる! 俺は子供達に何も出来ないがおまえなら立派に3人の子供を育てられる筈。成人を迎え孫の顔を見るまでは死ぬなー! 神様、御先祖様、仏様、どうかどうか妻の命を救ってやってください! 私の命とすり替えてください!』
 と、汗と涙でグショグショになった指を汲んで必死に念じていました。
 後から来た妻の弟も一緒に手術室のドアの開くのを待っていました。

 明かりが消えドアが開き、執刀医に駆け寄り問い質すと、
『一命は取り留めました。でも、油断はできません。』
 と聞いた時、弟とお互いの肩を叩き合い2人で床に崩れ男泣きをしました。
 その後は、記憶がありません。

 妻は意識が戻るまで1ヶ月費やしましたが、その間面会時間を特別に許可を得て3時間おきにICU室に入り三日三晩、妻の体を摩り波計や点滴の名前を記録したり、看護師が他の重篤な患者を看ている時は、波計の状況やこちらの要望、必要なオムツの量などの連絡帳を作り、コミニュケーションをはかりました。

 しかし、妻の点滴の名前が他の男性の名前になっていたのを発見した時には唖然として、直ぐに看護師と医師を呼び付け、点滴の交換と処置を命じたのです。
 幸い点滴の量が少なかった為、大事には至りませんでしたが、あと1分私がICUに入るのが遅れていれば、他人の薬の入った点滴が妻の体内に流入して最悪の事態になっていた事でしょう。
 その事で更に病院に対する不信感が増し、ひたすら病院に頼らない看病が続いたのです。

 御主人の裁判の準備の間、巻子さんは覚醒後で一番辛い時期だったと思います。
 事故後、初めて見たご主人と病室、自分の置かれている現状に気が付き、体が動かない。喋れない。病室に響くポンプの音。自発的に出来ない呼吸。と、悟ったのはこの時期だったのでしょう。
 何故?何故?と自問自答したあげくの果て自身の体の異変に気づいてしまったショックは、想像を絶するものがあるに違いありません。

 意識が清明になり御主人と対面し、自分の異変に気付き、思わず口走ってしまった。まだ睡眠安定剤が残存していたであろう意識の中で発した言葉。
 『日本一愛しています』とフォローしたものの、居た堪れなくなり、こんな自分を消し去りたい!
『まみいをころして・・・・・』
 私自身、細くて重い溜息を洩らし、しばらくは先に読む事が出来ませんでした。

 ようやく気を取り直した先の文章は、裁判の委任弁護士が、私弁護士と同じ名前の弁護士である事に又、偶然を感じていました。

 日本とアメリカの裁判の賠償額があまりにも違う矛盾に、人の命の尊厳さを軽視した日本の裁判の判決に憤りを私は、傍聴支援をしてきていつも感じていました。
 最近ようやく感じた事ですが、私が裁判に踏み切れないでいるのも、そういった日本の裁判制度の表と裏、保険屋の被害者に対する否定の意義、過失割合と言う保険屋にとって都合の良い賠償額割引券。
 加害者と被害者の不均等な日本の救済措置。人を殺したり重い障害にしても、加害者の立場を尊重する刑事・民事裁判の在り方。
 決して、どの被害者も納得のいかない裁判が強いられて行く現実。 
 何と歯痒い苛立たしい日本の裁判。
 被害者の心情と苦痛を勘案すれば加害者の比では無く、判決を聞いた弁護士が言う ”画期的な判決でした”は、自分の仕事に満足している言葉にほかならない、被害者にとっては何の慰めにもならない言葉だと思います。

 懸命に看病なさるご主人を気遣い、労いの言葉をかけ、毎日の様に繰り返される『幸郎さんを愛しています』の、言霊の裏には、
”もう決して泣かない!殺してなんて言わない! この人と生きていられるこの幸せな時間を精一杯生きよう! と、いうどこまでもポジティブな巻子さんの心の力強さを感じます。

 ”赦し”につきましては、〔罪を憎んで、人を憎まず〕と、いう言葉を私も事故後、この7年間の経過の中で考えた事はあります。 妻と子供二人を傷つけた加害者とその夫に対しては、憎しみ以外何も考えられませんでした。 
〔目には目を。歯には歯を!〕の言葉通り、加害者に妻や子供達に同じ恐怖と苦しみを与えてやりたかったのは事実です。 が、しかしそれで一時的に気は晴れるかもしれませんが、精神1級、身体2級の重い障害を負った妻と、子供たちの障害は、今後何十年生きている限り背負っていかなければならない十字架の様なもので、事故が無かった場合の体や精神状態には、決して戻らないのです。

 確かに ”過ちは、人の常、赦すは神の業”かもしれません。 神との距離感が欧米とは違う者にとっては、神に近づけない苛立たしさを感じるのは凡人である故の未熟さなのでしょう。
 せめて被害者が苦しみ続ける一生の間の一部だけでも加害者に制裁を加えたくなるのも、神に近づけない人間の悲しい性なのかもしれません。

 私が常に思う事ですが、先天的にまたは後天的に障害を負ってしまった方々は、まさにデール・カーネギー著の 『 道は開ける 』の三つのメッセージを実践しているかに思える様な強い心を持ち一生懸命生きようとしている方が多いのには、驚かされます。
 妻も高次脳機能障害と両眼視野狭窄、肺機能障害、右方上下肢軽麻痺、構音障害 ・・・。巻子さん同様葛藤の末、前向きに必死に生きようとしています。

 ふと、開けた柳原さんのページで、出会えた松尾幸郎さんと巻子さん夫妻。
 そして素直で愛に満ちた子供さん達。
 私とは住む世界の違う方々ですが、何故か他人事ではない様な気がしています。
 もし可能ならば、お会いしてみたい。でもそれは、叶わない事。立入ってはならない領域。
 でもそれでいいんです。 同じ様な境遇の方が、力強く生きていらっしゃるお姿をこの本によって知ることが出来ただけで、私は光を見出せた様な気がします。
 私達家族も、松尾さんの様な愛情に満ちた家族に少しでも近づく事が出来ますように!
 お幸せに!


柳原様

 長くなりましたが、この本を読んだ感想とさせていただきます。
 私は、これからようやく裁判に突入しようとしています。 保険屋の攻撃も理解しているつもりです。
 何もしない0より、100 に成らずとも一つ一つ積み上げ、100 に一歩でも近づける様、戦うのみです。
また、スローダウンした時は、勇気と力をくださいね。

 これからも、柳原さんの益々の御活躍をお祈りします。
  1. 2010/07/10(土) 19:44:55|
  2. 『巻子の言霊』感想文

プロフィール

柳原三佳

Author:柳原三佳
<ジャーナリスト・ノンフィクション作家>
交通事故、司法問題等をテーマに執筆や講演活動を行う。「週刊朝日」などに連載した告発ルポをきっかけに自賠責制度の大改定につながったことも。2004年からは死因究明問題の取材にも力を入れ、犯罪捜査の根幹に一石を投じてきた。著書に「家族のもとへ、あなたを帰す ~東日本大震災 歯科医師たちの身元究明」「遺品~あなたを失った代わりに」「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」「交通事故被害者は二度泣かされる」「自動車保険の落とし穴」「死因究明~葬られた真実」「焼かれる前に語れ」「交通事故鑑定人」「示談交渉人裏ファイル」「裁判官を信じるな」など多数。」「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」は、NHKでドキュメンタリードラマ化された。「実父を医療過誤で亡くし、自らも医療過誤被害を受けた経験があり、現在は医療問題にも精力的に取り組んでいる。千葉県在住。自宅の裏庭に、「古民家(長屋門)」を移築し、スローライフも楽しんでいる。
■柳原三佳のHP http://www.mika-y.com/

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